こんにちは。今回は、ベクトルの”外積”について解説していきます。通常、高校数学では習わない概念ですが、ベクトルの外積について学習すると、次のようなメリットがあります。
① ベクトルの難しい問題も外積を使うことで比較的簡単に解けるようになる
② 物理の理解がより一層深まる
数学に限った話では、①のベクトルの難しい問題が、ベクトルを使うことで、比較的簡単に解けるようになるということが最も大きなメリットになります。物理選択の人は、②の物理の理解がより一層深まるという点も大きなメリットになります。ここではあまり深くは述べませんが、ローレンツ力の公式や導体棒の起電力の公式など本来、外積で書かれるべき公式は数多く存在します。
ベクトルの外積とは何か?
まず、ベクトルの外積について解説します。\( \overrightarrow{a} \) と\( \overrightarrow{b} \)に垂直なベクトルを「外積」と呼びます。
そして、\( \overrightarrow{a} \) と\( \overrightarrow{b} \)に垂直なベクトルである外積は次の計算によって、求めることができます。
なお、この外積の計算方法を覚えないと、問題の中で使えるようにならないので、必ず、この外積の計算方法は覚えましょう。ただ、実際、かなり覚えにくい式だと思います。そこで、私なりの外積の計算方法を伝授したいと思います。
外積の計算方法の覚え方
外積の計算の覚え方は「求めたい成分を隠して、たすきがけをする」というものです。
まず、各成分を次のように書き並べます。
次に、求めたい成分を隠します。例えば、外積の成分の \( x \) 成分を求めたいときは、\( x \) 成分を隠します。
そして、最後に残った成分をたすきがけします。
他の成分も同様にして求めることができます。ただし、\( y \) 成分については注意が必要で、求まったに\( -1 \)倍する必要があります。
実際に、外積の計算をしてみましょう。
例題1:外積の計算例
定義通り計算しましょう。
冒頭でも触れたように、外積というのは、\( \overrightarrow{a} \) と\( \overrightarrow{b} \)に垂直なベクトルのことでした。つまり、\( \overrightarrow{a} \) と\( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b} \) の内積を計算すると、0になるはずです。実際に、例題1で求められた外積について,内積を計算してみると、
$$ \begin{pmatrix} 2 \\ 1 \\ 3 \end{pmatrix}・\begin{pmatrix} 3 \\ 3 \\ -3 \end{pmatrix}=0,\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \\ 0 \end{pmatrix}・\begin{pmatrix} 3 \\ 3 \\ -3 \end{pmatrix}=0 $$
となることから、外積\( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b} \) はベクトル\( \overrightarrow{a} \),\( \overrightarrow{b} \)に直行していることが分かります。
演習1:外積の計算練習
外積の性質
外積の方向
外積というのは、\( \overrightarrow{a} \) と\( \overrightarrow{b} \)に垂直なベクトルのことでした。ただ、\( \overrightarrow{a} \) と\( \overrightarrow{b} \)に垂直なベクトルというのは、下図を見ていただければ分かるように、上向きと下向きの2つの方向があります。
外積 \( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b} \)は、ベクトル \( \overrightarrow{a} \)から\( \overrightarrow{b} \)へ右ねじを回した向きの方向を向いています。つまり、外積 \( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b} \)は、下図の赤いベクトルを表します。
逆に、外積 \( \overrightarrow{b}×\overrightarrow{a} \)だと、ベクトル \( \overrightarrow{b} \)から\( \overrightarrow{a} \)へ右ねじを回した向きの方向を向いています。つまり、外積 \( \overrightarrow{b}×\overrightarrow{a} \)は、下図の赤いベクトルを表します。
このように、外積 \( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b} \) と外積\( \overrightarrow{b}×\overrightarrow{a} \)では、ベクトルの向く向きが反対になります。このことから、\( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=-\overrightarrow{b}×\overrightarrow{a} \)であることが分かると思います。
外積の性質①
- 外積 \( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b} \)は、ベクトル \( \overrightarrow{a} \)から\( \overrightarrow{b} \)へ右ねじを回した向きの方向を向く
- \( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=-\overrightarrow{b}×\overrightarrow{a} \)
外積の大きさ
ベクトル\( \overrightarrow{a} \)と\( \overrightarrow{b} \)のなす角を \( \theta \) とします。
このとき、外積 \( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b} \) の大きさは次で与えられます。
$$ |\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}|=|\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|\sin{\theta} $$
これは図形的には、ベクトル\( \overrightarrow{a} \)と\( \overrightarrow{b} \)が作る平行四辺形の面積を表しています。
外積の性質②
外積の大きさは、ベクトル\( \overrightarrow{a} \)と\( \overrightarrow{b} \)のなす角を \( \theta \) とするとき、
$$ |\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}|=|\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|\sin{\theta} $$
で与えられる。
同じベクトル同士の外積
同じベクトル同士の外積は0になります。
$$ \overrightarrow{a}×\overrightarrow{a} = 0 $$
このことは、外積の性質①の式変形から容易に分かります。外積の性質①より
$$ \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=-\overrightarrow{b}×\overrightarrow{a} $$
であり、\( \overrightarrow{a}=\overrightarrow{b} \)のとき、
$$ \overrightarrow{a}×\overrightarrow{a}=-\overrightarrow{a}×\overrightarrow{a} $$
です。移項すると、
$$ 2\overrightarrow{a}×\overrightarrow{a}=0 $$
となり、
$$ \overrightarrow{a}×\overrightarrow{a}=0 $$
となります。
外積の性質③
同じベクトル同士の外積は0である。
$$ \overrightarrow{a}×\overrightarrow{a} = 0 $$
2つのベクトルが平行のとき
2つのベクトルが平行のとき、\( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=\overrightarrow{0} \)なります。逆に、\( \overrightarrow{a}≠\overrightarrow{0} \)かつ\( \overrightarrow{b}≠\overrightarrow{0} \)のとき、\( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=\overrightarrow{0} \)なら\( \overrightarrow{a} \)と\( \overrightarrow{b} \)は平行になります。
外積の性質④
\( \overrightarrow{a}≠\overrightarrow{0} \)かつ\( \overrightarrow{b}≠\overrightarrow{0} \)のとき、\( \overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}=\overrightarrow{0} \)なら\( \overrightarrow{a} \)と\( \overrightarrow{b} \)は平行
例題2:三角形の面積
外積の性質②を用いて、三角形の面積を求めることができます。
図形的には、外積の大きさはベクトル\( \overrightarrow{a} \)と\( \overrightarrow{b} \)が作る平行四辺形の面積でした。なので、ベクトル\( \overrightarrow{a} \)と\( \overrightarrow{b} \)が作る三角形の面積は、\( \displaystyle \frac{1}{2} |\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}| \) で求めることができます。
なお、この問題を高校の教科書に掲載されている標準的な解法で解いてみると、
$$ S=\displaystyle \frac{1}{2} \sqrt{|\overrightarrow{OA}|^2 |\overrightarrow{OB}|^2 – (\overrightarrow{OA}・\overrightarrow{OB})^2}=\displaystyle \frac{1}{2} \sqrt{14・2 – 1^2}=\displaystyle \frac{3\sqrt{3} }{2} $$
となるので、外積の大きさを用いて求めた結果と一致します。
演習2:三角形の面積
内積と外積の比較
ベクトルの掛け算には本記事で紹介した外積と高校数学で習う内積があります。ここでは、この両者を比較してみることにします。
内積 | 外積 | |
計算結果 | スカラー | ベクトル |
大きさ | \( |\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|\sin{\theta} \) | \( |\overrightarrow{a}||\overrightarrow{b}|\cos{\theta} \) |
0のとき1 | \( \overrightarrow{a} \)と\( \overrightarrow{b} \)は垂直 | \( \overrightarrow{a} \)と\( \overrightarrow{b} \)は平行 |
このように、内積と外積は綺麗に対応していることが分かると思います。
外積を用いた応用例
ここでは外積を用いた代表的な応用例について解説していきます。
平面の方程式
外積を用いると、簡単に平面の方程式を求めることができます。
平面の方程式
点\( A(x_0,y_0,z_0) \)を通り、\( \overrightarrow{n}=(a,b,c) \)を法線とする平面の方程式は、
$$ a(x-x_0)+b(y-y_0)+c(z-z_0)=0 $$
平面の方程式を求めるときに、法線ベクトル\( \overrightarrow{n} \)を求める必要があるのですが、この法線ベクトル\( \overrightarrow{n} \)を求める際に、外積を用いると、簡単に平面の方程式を求めることができます。
平行六面体の体積
外積を用いると、平行六面体の体積を簡単に求めることができるようになります。平行六面体とは次図のような図形のことです。
このような平行六面体の体積は以下の式で求めることができます。
平行六面体の体積
3つのベクトル\( \overrightarrow{a},\overrightarrow{b},\overrightarrow{c} \)が上図のような関係にあるとき、平行六面体の体積\( V \)は
$$ V=|(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b})・\overrightarrow{c}| $$
で求められる。
なぜ、平行六面体の体積\( V \)が\( V=|(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b})・\overrightarrow{c}| \)で求められるのかは、簡単に示すことができます。
平行六面体の底面積\( S \)は、外積の性質②でやったように、\( S=|\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}|\)で求めることができます。
平行六面体の高さ\( h \)は上図のようになるので、平行六面体の高さは、\( h=|overrightarrow{c}|\cos{\alpha}) \)になります。よって、平行六面体の体積\( V \)は、
$$ V=Sh=|\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}||\overrightarrow{c}|\cos{\alpha} $$
となります。内積の定義から
$$ V=Sh=|(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b})・\overrightarrow{c}| $$
となります。よって示すことができました。
四面体の体積
外積を用いれば、平行六面体だけでなく、四面体の体積も簡単に求めることができます。四面体の体積\( V \)は次の式で求めることができます。
四面体の体積
3つのベクトル\( \overrightarrow{a},\overrightarrow{b},\overrightarrow{c} \)が上図のような関係にあるとき、四面体の体積\( V \)は
$$ V=\displaystyle \frac{1}{6} |(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b})・\overrightarrow{c}| $$
で求められる。
これも簡単に示すことができます。
四面体の底面積\( S \)は、上図から分かるように、\( S=\displaystyle \frac{1}{2}|\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}|\)となります。小学生のとき習ったように、三角錐の体積は、\( \displaystyle \frac{1}{3} \) ×底面積×高さで求めることができますので、四面体の体積\( V \)は、
$$ V=\displaystyle \frac{1}{3}×\displaystyle \frac{1}{2}|\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b}||\overrightarrow{c}|\cos{\alpha}=\displaystyle \frac{1}{6} |(\overrightarrow{a}×\overrightarrow{b})・\overrightarrow{c}| $$
となるため、上の公式を示すことができました。
高校物理への応用
高校物理で習う式の中には、本来は外積で表される公式があります。ただし、高校数学の中では外積を扱わないため、外積で表さずに誤魔化して説明される公式があります。ここではその一例を紹介します。
ローレンツ力
ローレンツ力とは、磁界内で運動する荷電粒子が磁界から受ける力のことを指します。一般にローレンツ力の式は以下で表されます。
ローレンツ力
磁束密度\( \overrightarrow{B} \)内の空間中を運動する電荷\( q\)が速度\( \overrightarrow{v} \)で運動しているとき、荷電粒子が受ける力\( \overrightarrow{F} \)は、以下の式で表される。
$$ \overrightarrow{F}=q\overrightarrow{v}×\overrightarrow{B}$$
ここで、「×」は外積である。
\(\overrightarrow{v}×\overrightarrow{B}\)という式の形(外積)から分かるように、力\( \overrightarrow{F} \)の向きは、\(\overrightarrow{v}\)から\( \overrightarrow{B} \)へ右ねじを回す方向になります。
高校物理では力の大きさと力・磁束密度・速度の関係(フレミングの左手の法則)を別々で覚えさせられますが、外積を知っていれば、暗記量は、上式の式1つで済んでしまいます。
電流が磁場から受ける力
ローレンツ力を学んだ後に、電流が磁場から受ける力を、高校物理で学ぶと思います。一般に電流が磁場から受ける力は以下で表されます。
電流が磁場から受ける力
磁束密度\( \overrightarrow{B} \)内の空間中で長さ\( l\)の導体中を電流\( \overrightarrow{I} \)の電流が流れているとき、電流が磁場から受ける力は以下で表される。
$$ \overrightarrow{F}=\overrightarrow{I}×\overrightarrow{B}l$$
ここで、「×」は外積である。
\(\overrightarrow{I}×\overrightarrow{B}\)という式の形(外積)から分かるように、力\( \overrightarrow{F} \)の向きは、\(\overrightarrow{I}\)から\( \overrightarrow{B} \)へ右ねじを回す方向になります。
このように、外積を用いると、式1つで力の受ける向きまで表すことができてしまうのです。
おわりに
今回は、外積について紹介しました。外積はしっかりマスターすれば、受験の際に強力な武器となり得ます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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